境界線を引くランチ会─新年会で言えなかったこと

久しぶりの友人たちとの新年会。

テーブルには料理が並び、グラスが乾杯の音を立て、笑い声が途切れることなく続いていた。
再会を喜ぶ声、近況を報告する声、変わらない日常がそこにあった。

目次

「最近どう?」

けれど、私の心のどこかには、薄い膜のような違和感があった。

この賑やかさの中で、私だけが少しズレた場所にいるような感覚。

誰かが笑っている横で、私は笑顔を作りながら、心の中では全く別のことを考えていた。

「最近どう?」

その言葉が、私に向かって投げかけられる瞬間が怖かった。

何気ない質問。誰もが当たり前に答えている近況報告。

けれど、私にとってそれは、重い選択肢だった。

本当のことを言うのか。それとも、適当に濁すのか。

「実は、うつ病で休職中なんだ」

そう言えたら、どれだけ楽だろうと思う。

けれど、その言葉を口にすることが、どれだけこの場の空気を変えてしまうかも想像できてしまう。

同情の眼差し。気まずい沈黙。そして、誰かが気を遣って話題を変える瞬間。

私は、そんなふうに場を壊したくなかった。

それ以上に、「休んでいる自分」を他人に差し出すことが、まだ怖かったのだと思う。

なぜ言えないのか。

同情されたくないからか。

それとも、自分自身がまだ「うつ病で休んでいる私」を受け入れきれていないからなのか。

答えは、きっとその両方だった。

結局、私はその場で本当のことを言わなかった。

「相変わらず、マイペースにやってるよ」

そう答えて、笑顔を作った。

嘘をついたわけではない。

ただ、全てを話さなかっただけ。

誰に何を伝えるか。それを選ぶ権利は、私にある。

これは、自分を守るための境界線だったのだと思う。

新年会が終わり、アトリエに戻ってきた。

静かな部屋に一人でいると、ようやく肩の力が抜けた。

誰かに何を言っても、言わなくても、私は私だ。

この境界線を引くことは、弱さではなく、今の私にとって必要な選択だったのだと思う。

賑やかな場所から離れて、静寂の中に戻ってくる。

それが、今の私にとっての心地よさだった。

目次